【民法】6頁目の末行まで
[設問1]
⒈ Aは、以下のように考えて、下線を付した部分(以下「本件下線部」という)の法律上の意義を説明することで、Cによる解除は認められないと主張すればよいと考える。
⒉ AとCは、甲建物の1階部分につき、賃料月25万円として賃貸借契約(民法(以下、略)601条)をした。しかし、賃借人たるAは甲建物に免震構造があると思っていたが、実際は、免震構造はなく、法令の耐震基準を満たしているだけであった。
⑴ そこで、まず、Aとしては、609条の賃料減額請求が考えられるが、Aのフラワーショップは繁盛しており、その「収益」が、賃料月25万円より少ないとは考え難く、認められない。
⑵ また、611条1項の賃料減額請求が考えられるが、上記免震構造を備えていない原因は、建築業者の手抜き工事という契約前の事情であるから「賃借物」が「滅失」したとはいえず、これも認められない。
⒊ そこで、Aとしては、本件下線部は、賃貸目的物の瑕疵担保責任(559条本文、570条、566条)に基づく損害賠償請求権を自働債権として、これとCのAに対する6か月分の賃料債権120万円を相殺(505条1項本文)を意味するから、Aには債務不履行はなく、Cの解除(620条、541条、540条1項)は認められない、と説明すべきである。
⑴ まず、瑕疵担保責任の趣旨は、特定物ドグマから(483条)、有償双務契約の対価的均衡を維持するための特別の法定責任にあるから、「目的物」(559条本文、570条)とは、特定物、と限定して考える。
本件では、甲建物は、免震構造という甲の個性に着目したものであり、特定物であるといえる。仮に、甲建物は新築であることから、不特定物であるとしても、Aは甲建物に免震構造がないことを知った後も、フラワーショップに客がついていることから、そのまま甲建物を賃借することと決めており、Aは、甲建物の瑕疵を認識し、これを履行として認容したといえるから、特定があったといえる(401条2項後段参照)。いずれにせよ、甲建物は特定物であり「目的物」にあたる。
⑵ 次に、「瑕疵」(559条本文、570条)とは、目的物が通常有すべき性能を有しないこと、をいう。瑕疵担保責任の趣旨は、上記のように、契約の対価的均衡を維持することにあるから、瑕疵の有無は、契約時の当事者の主観を基準に決する。
本件では、Aは、建物の安全性に強い関心を持っていた。そしてAは、Cから、甲建物には免震構造があるため相場価格より25%賃料が高い旨の説明を受けたうえで、契約をしている。故に、AとCは、契約当時、甲建物には免震構造があることを念頭にしていたといえ、これを欠く甲建物には「瑕疵」があるといえる。
⑶ また、一般的に、建物の欠陥は一見して分からないし、実際にAも2年弱甲建物を利用していたのに瑕疵にきずかなかったのだから、これは通常の注意では発見できないものであるといえ、「隠れた」にあたる。
⑷ 除斥期間は満たされている(559条、570条、566条3項)。
⑸ さらに、瑕疵担保責任は特別の法定責任であるから、「損害」(559条、570条、566条1項後段)は、信頼利益に限られる。
本件では、Aは、甲建物に免震があることを信じて賃料月25万円として契約をしているのだから、信頼利益である。「損害」はあり、その額は120万円である。
⑹ 故に、AはCに対して120万円の損害賠償請求権を有する。
⒋ よって、これと以降6か月分の賃料とを相殺(Aの発言は相殺の意思表示である。506条)したから、Aに不履行はなく、Cの解除は認められない。以上のように説明すればよい。
[設問2]
⒈ 小問⑴
⑴ FのDに対する請求の根拠は、本件胎児が流産し、Aには直系尊属もいないため、FはAの相続人に繰り上がったとして、AのDに対する損害賠償請求権(715条)を相続したというものである(882条、896本文、889条2項2号)。額は1億円の4分の1である2500万円である(900条3号)。
⑵ もっとも、本件では、その前に、B・本件胎児と、Dとの間で本件和解がされており(695条)、その際にBはDに対して各4000万円以外の部分を免除(519条)しており、この免除の効力が問題となる。これは、当事者の意思が相対的免除か、絶対的免除かによる。
本件で、たしかに、胎児は相続については権利能力がある(886条1項)。しかし、これは法定停止条件であるから(886条2項参照)、Bが本件胎児にした免除は無効である。そうであれば、本件胎児のDに対する請求権を免除できないどころか、相続人となる予定はなかったFを念頭に、Bが債務免除をしたとは考えられない。故に、Bの免除は相対的免除であり、B自身の請求権にだけ効力が生じる。
⑶ 故に、FはDに対して2500万円の請求ができる。
⒉ 小問⑵
⑴ Dは、Bに対して、本件和解が錯誤無効(95条)であることを理由に、不当利得(703条)を根拠として、8000万円の返還請求ができる。
⑵ まず、本件和解の確定効(696条)により錯誤無効を主張できないのではないか。確定効の根拠は、紛争を解決しようとした当事者の合理的意思にあるから、当該争点となった部分についてのみ確定効が生じ、それ以外の部分には生じないと考える。
本件では、BとDに争いがあったのは、損害賠償の額についてであり、本件胎児が流産することや、それによりFが相続人としての順位をえるといったことではない。この部分に確定項は生じない。そして、BとDは、BとDが相続人となることを前提として和解金を定め、他の権利を放棄したのであり「要素の錯誤」(95条本文)があり、本件和解は全体として無効となる。なお、共通錯誤があるから、95条但書は問題とならない。
⑶ 故に、DはBに対して8000万円の返還請求ができる。
⒊ 小問⑶
⑴ Bの相続分は4分の3だから、BはDに対して7500万円の損害賠償請求ができる。
⑵ Bはこの7500万円を自働債権として、上記Dへの8000万円の返還債務と相殺ができる。
[設問3]
⒈ Hは、Kに対し、所有権(206条)に基づく返還請求権として丙収去丁明渡請求をする。その請求原因は、ⅰHが丁を所有していること、ⅱKが丁の上にある丙を所有して丁を現占有していること、である。
⒉⑴ 事実①②③は、上記ⅰを基礎付ける事実として、法律上の意義がある。
⑵ 事実⑤は、上記ⅱを基礎付ける事実として、法律上の意義がある。
⑶ 事実④は、Hは、Kに対して丁の持ち分3分に2を対抗(177条)できないことを意味するのではないかとも思えるが、これに法律上の意義はない。なぜなら、177条の「第三者」とは、当事者とその包括承継人以外の者であって、登記が欠けていると主張することにつき法律上の利害を有する者をいうところ、本件で、Kは単なる不法占有者にすぎず、主張の利益がなく「第三者」ではないからである。
⑷ 事実⑥も、法律上の意義はない。なぜなら、物権的請求としての建物土地請求は原則として建物の真の所有者に対してすべきであるところ、仮にHがCに対して請求をするのであれば、土地所有者はその上の建物につき重大な利害があり、その建物の所有権を得て登記を経たものに登記がある以上、それを他に譲っても「喪」につきあたかも対抗関係類似となるが(177条)、本件では、Cが建物所有者であり、177条は問題とならないからである。
以上
★感想:
▷形式面について。設問1の代金減額請求はどうせ否定されるだろうから、瑕疵担保+相殺だけでよかったかもしれません。また、瑕疵担保の「損害」の存在を忘れていて、除斥期間よりも後に損害を書くことになってしまいました。
▷内容面について。民法はいろいろやらかしてしまった感が強いです。この構成でいいのかすら不安です。
設問2について。小問⑴で書いた免除の相対効・絶対効の話は、通常は、債権者が債務免除をしたときに他の連帯債務者(本件ならE)に対しても免除の効力が及ぶか、という問題なので、本件とは事案が異なると思います。自分の知っている論点に引きつけて解いているとの印象を抱かれてしまいそうですね。また、小問⑶は、不法行為債権の相殺禁止(509条)についても触れるべきでした(本件では、Bが不法行為債権を自働債権として相殺することになるので、相殺は可能だと思います)。
設問3について。まず、177条の「第三者」の定義が違います。また、事実②は意義ありとして事実④が意義ないとする点は矛盾しています。。