【全ての司法修習生におくる】オススメ書籍リスト

0 はじめに

今回は、司法修習生の間に読んでおくと、今後に役立つ書籍をご紹介します。
修習予定者には、修習前にいわゆる「白表紙(しらびょうし)」と言われる司法研修所のテキストがダンボールで郵送されてきます。どの白表紙を熟読するべきかといった点は他のブログでも多く紹介されているところですので、今回は、市販の書籍のみのご紹介になります。
また、二回試験に合格することのみを目的とした書籍紹介ではなく、実務に出た後にも役立つものをピックアップしています。

以下では、1ないし8の項目に分けてご紹介していきます。
なお、8項の「一歩先へ進みたいかた向け(実務に出ても参照するもの)」は、実務に出れば参照することになりますが(当然ですが、実務に出ると8項で紹介するものだけでは足りません。)、就職先の事務所の本棚にあるものが殆どだと思いますし、実務に出た際は新版が出ている可能性もあるので、修習中に購入するかどうかはお財布と相談してください。

1 必ず読むべき本

○ 田中豊「法律文書作成の基本」(日本論評社)
《コメント》
著者は元裁判官で、最高裁判所の調査官(民事)もされていた方です。
ロースクールの教員もされており、私も1年間、著者の講義を受講していました。講義後教員に質問に行くタイプの学生ではなかったのですが、田中先生には気になる点を質問をしに行っていたことが懐かしいです。
本書の文章もそうですが、田中先生は、講義でお話しでも、基本的なところから1つずつ理論を積み上げていく姿勢が表れていて、かつ、思考過程を淀みなくお話される方でした。
そんな著者が法律文書の作成の基本について作成したのが本書になります。トップクラスの法曹の思考過程・文書の作成過程を学べる一冊です。
贔屓目を抜きにしても必読の書です。

○ 京野哲也「クロスレファレンス民事実務講義〔第2版〕」(ぎょうせい)
《コメント》
元民事弁護教官の弁護士の著書です。
民事弁護の基礎・叡智が結集しています。私のような若手はもちろん、経験をある程度積んだ後も参照することを確信しています。定期的に通読したい一冊です。
相互参照(クロスリファレンス)が豊富に付されており、通読だけでなく、必要な部分のみの参照にも有効ですが、修習生には通読をオススメします。

○ 「刑事弁護ビギナーズver.2」(現代人文社)
《コメント》
若手(といっても60期くらい)の弁護士が共著で作成した一冊。
捜査から公判、障がいのある方の弁護についても記載されています。基本から徹底した記述されており、読めば刑事弁護人の在るべき姿が浮かび上がってくる一冊です。
刑事弁護で悩んだ際は、本書の該当部分を参照しています。

2 弁護士業務(特に街弁)のイメージを掴むのにオススメ

○ 中村真「若手法律家のための法律相談入門」(学陽書房)
《コメント》
実務出て最初に直面する壁は、「初回の法律相談」であるといっても過言ではありません。
初回相談は、相談者の法的な問題を特定し(相談者が意識していない他の法的問題がある場合もあります。)、相談者に当面の対応をアドバイスする場であると同時に、弁護士からみると、営業の場面(受任に繫がる場面)でもあります。
初回相談(30分であることが多い)という短い時間の中で、弁護士がしゃべりすぎると「弁護士は私の話を聞いてくれなかった」となりますし、逆に、相談者の話を聞きすぎて時間がなくなると「全くアドバイスを受けることができなかった」ということになりかねません。
初回の法律相談は、弁護士の基本業務でありながら、非常に難しい場面であるといえます。
本書は、法律相談についての基本を分かり易く(かつ面白く)説明している良書です。

○ 圓道至剛「若手弁護士のための民事裁判実務の留意点」(新日本法規)
《コメント》
弁護士任官により民事裁判官の職務経験のある弁護士が著した一冊。
上記1の「クロスリファレンス民事実務講義」と並ぶ良書です。民事裁判官と弁護士の両方を経験している著者ならではの説得力があります。
若手弁護士なら誰でも悩むであろう期日対応も知ることができる良書。
なお、同じ著者の類書(こちらの方が出版年が新しい)として「企業法務のための民事訴訟実務解説」(BJL BOOKS)があります。

○ 松江頼篤他「事件類型別 弁護士実務ハンドブック」(東弁協叢書)
《コメント》
新人弁護士がボス弁の指導を受けるという物語形式で、読者も読み終わった際に成長できるであろう一冊。
時折、ハッとなる記述や、笑える(ある意味で笑えない)記述もあり、一読の価値ありです。

○ 東京弁護士会春秋会「実践 訴訟戦術 - 弁護士はみんな悩んでいる」(民事法研究会)
《コメント》
民事弁護に関するテーマについて、若手/中堅/ベテランの弁護士の対話形式で解説する良書。
ボス弁が新人の私にのために購入し、事務所の本棚に置いてくれたものでもあります。私は実務に出た後に読みましたが、本書には、訴訟案件について受任から訴え提起までどれくらい時間をかけるかや、慰謝料請求の金額をどうするか、といった他の弁護士はどのように考えているのだろうと気になる部分の記述もあります。
修習生の段階(特に弁護修習後)にも読んでおきたい一冊です。

○ 事例に学ぶシリーズ(民事法研究会)
例:「事例に学ぶ債務整理入門 ― 事件対応の思考と実務」
《コメント》
特定の分野について、具体的事例をベースに、受任から終結までを時系列に沿って解説する良書。
特定の分野のイメージが湧き、初めての分野を受任する前に、一読したい一冊です。
債務整理の他には、相続、刑事、交通事故、保全執行、労働、後見等があります。

○ 林道晴他編「ライブ争点整理」(有斐閣)
《コメント》
弁論準備手続について、期日でのやり取りや、期日間の検討の場面を、両当事者代理人弁護士・裁判官それぞれの立場から説明する良書。おそらく類書はありません。

○ 櫻井光政「刑事弁護プラクティス―新人弁護士養成日誌」(現代人文社)
《コメント》
刑事事件について、新人弁護士の弁護活動・奮闘を描く良書。
刑事事件のやりがいだけでなく、過酷さや厳しさも書かれており、刑事弁護のリアルをイメージすることができます。

3 周辺知識を押さえるのにお勧め

○ 髙中正彦他「弁護士の周辺学」(ぎょうせい)
○ 畑中学「2時間で丸わかり 不動産の基本を学ぶ」(かんき出版)
○ 池田秀敏編著「家事事件の法務・税務・登記」(新日本法規)
○ 小林秀之「交渉の作法 法交渉学入門」(弘文堂)
○ ハウエル・ジャクソン他「数理法務概論 - Analytical Methods for Lawyers」(有斐閣)

4 ビジネス・教養関係

○ 岩瀬大輔「社会人1年目の教科書」(ダイヤモンド社)
○ ダニエル・カーネマン「ファスト&スロー(上)・(下) あなたの意思はどのように決まるか?」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
○ ANAビジネスソリューション「人間関係もうまくいく ANAの気づかい」(kadokawa)
○ アービンジャー・インスティチュート「自分の小さな箱から脱出する方法」(大和書房)
○ 石井尚希「この人と結婚していいの?」(新潮文庫)
○ パスカル・ボニファス「最新 世界情勢地図〔増補改訂版〕」(ディスカバー・トゥエンティーワン)
○ 一橋大学経済学部編「教養としての経済学」(有斐閣)
○ 橋爪大三郎「世界がわかる宗教社会学入門」(ちくま文庫)

5 司法関係者が活躍する小説

○ 高杉良「会社蘇生」(講談社文庫)
《コメント》
会社更生法の保全管財人が主人公。熱いです。

○ E.S.ガードナー「義眼殺人事件」(ハヤカワ・ミステリー文庫)
《コメント》
刑事弁護人であるペリー・メイスンが主人公。無罪だと直感した人の依頼しか受けません。
刑事弁護で著名な神山弁護士も、本シリーズを愛読しているようです。

○ ジョン・グリシャム「汚染訴訟 上・下」(新潮文庫)
《コメント》
米国の大手ローファームのリストラ騒動に巻き込まれたアソシエイトが主人公。
メインストリーの環境問題もさることながら、主人公が移籍先の法律扶助協会(ミスリーディングですが法テラスのようなもの)に来る相談者がリアルです。

○ 伊坂幸太郎「チルドレン」(講談社文庫)
《コメント》
一風変わった家庭裁判所調査官が主人公。短編集ですがそれぞれの話が相互にリンクしていたり、光る台詞が多かったりと読み物として面白いです。
個人的な実感として、家裁や鑑別所・少年院に来る少年には、そこに来る過程の中で、周りの大人から愛想を尽かされ・見放されている(と感じている)少年が多く、そして尊敬できる大人を知らない(場合によっては付添人を含めて大人全員を軽蔑している)ことが少なくない印象です。本書の主人公は、言葉や文章上は明示されていませんが(むしろふざけているようにも見えます笑)、全人格をして少年と真剣に向き合う姿勢が根底にあると思います。きっと大人も悪くないだろ?と言いたいのではないでしょうか。

6 歴史小説

《コメント》
好きな歴史小説を3つ挙げよと言われたら、迷わずこれらを挙げるでしょう。いずれも、ベテラン法曹や社長が読んでることが多く、話のネタにもなります。

○ 池波正太郎「鬼平犯科帳1~24」(文春文庫)
○ 司馬遼太郎「竜馬がゆく1~8」(文春文庫)
○ 子母沢寛「勝海舟1~6」(新潮文庫)

7 その他小説

《コメント》
私が好きな小説ベスト3です。興味のある方は是非。

○ サン=テグジュペリ「夜間飛行」(新潮文庫)
○ 伊藤計劃「虐殺器官」(早川書房)
○ リリー・フランキー「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」(扶桑社)

8 一歩先へ進みたいかた向け(実務に出ても参照するもの)

(民事実務・裁判実務)
○ 岡口一基「要件事実マニュアル〔第5版〕 第1巻〜第5巻」(ぎょうせい)
○ 塚原朋一編著「事例と解説 民事裁判の主文」(新日本法規)
○ 小川英明他「事例からみる訴額算定の手引〔三訂版〕」(新日本法規)
○ 裁判所職員総合研修所編「書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究〔補訂版・和解条項記載例集〕」(法曹会)
○ 群馬弁護士会編「立証の実務〔改訂版〕」(ぎょうせい)
○ 東京弁護士会調査室編「弁護士会照会制度〔第5版〕」(商事法務)
○ 千葉県弁護士会編「慰謝料算定の実務〔第2版〕」(ぎょうせい)

(家事事件)
○ 長山義彦他「家事事件の申立書式と手続〔新版補訂〕」(新日本法規)
○ 片岡武他「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務〔第3版〕」(日本加除出版)
○ 片岡武他「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務〔第2版〕」(日本加除出版)
○ 中里和伸「判例による不貞慰謝料請求の実務」(LABO)
○ 秋武憲一編著「離婚調停 離婚訴訟〔改訂版〕」(青林書院)

(交通事故)
○ 佐久間邦夫編著「交通損害関係訴訟〔補訂版〕」(青林書院)
○ 別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂5版〕」(判例タイムズ社)

(保全・執行)
○ 八木洋一他「民事保全の実務(上)・(下)〔第3版増補版〕」(金融財政事情研究会)
○ 東京地方裁判所民事執行センター実務研究会「民事執行の実務 債権執行編〈上〉・〈下〉〔第3版〕」(金融財政事情研究会)
○ 東京地方裁判所民事執行センター実務研究会「民事執行の実務 不動産執行編〈上〉・〈下〉〔第3版〕」(金融財政事情研究会)
○ 執行官実務研究会編「執行官実務の手引〔第2版〕」(民事法研究会)

(刑事実務・少年事件)
○ 末永秀夫他「犯罪事実記載の実務 刑法犯〔6訂版〕」(実務法規)
○ 荒川洋二他「犯罪事実記載の実務 特別法犯〔4訂版〕」(実務法規)
○ 別冊判例タイムズ34号「令状に関する理論と実務Ⅰ」(判例タイムズ社)
○ 別冊判例タイムズ35号「令状に関する理論と実務Ⅱ」(判例タイムズ社)
○ 司法研究所編「難解な法律概念と裁判員裁判」(法曹会)
○ 司法研究所編「裁判員裁判における量刑評議の在り方について」(法曹会)
○ 大阪刑事実務研究会編著「量刑実務大系 第1巻~第5巻」(判例タイムズ社)
○ 第一東京弁護士会少年法委員会 編「少年事件ハンドブック」(青林書院)