【再現】平成25年度予備試験口述 ~民事系~

1 はじめに

 今回は平成25年予備試験口述(民事系)の再現をアップします。平成25年度の予備試験口述は、2日がかりで行われ、民事系と刑事系の問題が出題されましたが、受験生はランダムに、❶初日に民事系・2日目に刑事系を受ける受験生と、❷初日に刑事系・2日目に民事系を受ける受験生に分けられます。
 したがって、平成25年度の予備口述といっても民事刑事でそれぞれ2種類の問題があることになりますが、私は後者(❷)のパターンでした。そのため、以下の再現は民事系(2日目)の問題のものということになります。
 また、❷のパターンの民事の問題にはパネルが2枚用意されていましたが、情報量がかなり多かったので再現できませんでした。ご容赦ください(※この再現自体は、試験直後に作成したものなので、再現率は高いです)。
 順位については特定を避けるために公開しませんが、上位の部類です。
 なお、以下の再現では、「●」が私の発言、「★」が主査の発言、「()」は私の内心になっています。

2 再現

●○室○番です。よろしくお願い致します。
★では着席してください。
●失礼します。

★では、これから事案を説明しますので、よく聞いてください。…株式会社Xは、平成○年○月○日、Yとの間で、X社を請負人・Yを注文者とする請負契約を締結しました。では、①とある方のパネルをめくってください。このパネルを見ながら話を聞いてくださいね。

●はい…(請負かぁ。しかも事案複雑そうだし…。)。

★契約内容は、請負代金300万円、目的物の引渡し時は平成25年5月15日、代金支払い時期は引渡し後1ヶ月以内というものでした。X社は、契約の通り、平成25年5月15日に仕事を完成し、同日、目的物をYに引き渡しました。しかし、Yは、目的物引き渡し後1ヶ月が経過したにも関わらず、代金300万円を支払いません。
そこで、X社側は、弁護士Pに相談に行きました。結果、X社がYに対して訴えを提起するという運びになったのですが、X社としては、代金300万円と、損害賠償も請求したいとの意向を示しています。まず、あなたが弁護士Pであるとした場合、あなたは訴状の請求の趣旨に、どのようなことを記載しますか?

●はい。請求の趣旨には、…被告は、原告に対し、金300万円とこれに対する平成25年6月15日から支払済みまで…の年6分の割合の金員を支払え。…また、…訴訟費用は被告の負担とする。と書きます。

★訴訟費用もね。うんうん。あなたは、平成25年6月15日といいましたが、起算日はこれでいいんですかね?

●あっ…、と…、すみません。Yとしては、平成25年6月15日のギリギリ…日付が変わるまでに支払いをすればいいので、平成25年6月16日からでした。

★(笑)。そうですね。また、あなたは、年6分といいましたが、これはどうしてですか?6分でいいのですか?

●はい。Xは株式会社です。株式会社の行為は、商行為と扱われることになるので、商事法定利息の適用があります。商事法定利息は年6分なので、…本件の遅延損害金は年6分になると思います。

★うんうん。では、本件の訴訟物を教えてもらっていいですか?

●…えーっと、請負契約に基づく請負代金支払請求権と…履行遅滞に基づく損害賠償請求権です。

★うん。では、弁護士Pとしては、訴状に、パネル①に掲げられている各項の事項を請求原因事実として記載しているとします。そのうちの1つに、X社は平成25年5月15日に仕事を完成させた旨が記載されているのですが、これは、請求原因として記載する必要があるものですか?

●はい。必要があると考えます。

★うん。どうしてなのかな?

●えーと…、請負契約は、結果債務なので、仕事の完成が必要ですから…請負代金請求権の存在を基礎けるために…仕事の完成についても請求原因事実として摘示する必要があると思います(わからん…)。

★なるほど。まぁここはいくつか考え方があって、あなたが言うように請負代金支払い請求権の発生原因事実として仕事の完成を要求する考え方もあるんですよね。まぁいいでしょう。
では、次に、X社は、同日、つまり、平成25年5月15日に目的物をYに引き渡したことが記載されていますよね。これは、請求原因事実として記載する必要があるものですか?

●はい。必要があると思います。

★うん。なんでなのでしょうかね。

●はい。本件の請負契約では…X社が目的物を引き渡してから1ヶ月以内にYが代金を支払わないといけないという約定になっているので、X社の目的物引渡債務が…先履行の関係に立っています。…本件契約の内容から、請求原因レベルでこの先履行関係が表れてしまっているので、これを潰すためにあらかじめX社が目的物の引渡債務を履行したことも請求原因事実として摘示する必要があると思います…。

★うん。なるほど。履行遅滞に基づく損害賠償請求との関係ではどのような意味を持ってくるのかな?

●(…!!)。はい。えー…、それとの関係については、X社の目的物引渡義務の履行が先履行となって、Yはその1ヶ月以内に代金を支払えば足りるので、…Yの履行遅滞を基礎付るための前提として、目的物を引き渡したことを摘示する必要があると思います。

★うんうん。はい。…では次に、②の方のパネルをめくってください。今度は、あなたはYの方から依頼を受けた弁護士Qの立場にあるとして話を聞いてください。Yの相談の要旨は、②のパネル記載の通りでした(要するに、①Yは、X社から目的物の引渡しを受けはしたが、目的物に瑕疵があったこと、②別の専門業者に瑕疵についての修理代金を見積もってもらったところ、その費用は100万円であることが判明したこと、③Yとしては、修理はX社にではなく、別の業者さんにお願いしたいと考えていること、を内容とするものでした。)
この場合、弁護士Qとして、あなたは本件訴訟でどのような抗弁を主張しますか?

●はい。…とりあえず解除の抗弁などが…。

★解除?うーん。他で何か抗弁は考えられないでしょうか?

●他には、Yは別の業者さんに修理をお願いしたいということですので、瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を理由に、これと請負代金支払の……先…履行の抗弁を主張します。

★先履行でしたっけ?瑕疵修補に代わる損害賠償請求の根拠条文は分かりますか?

●民法の634条です。

★うんうん。そうですね。その何項ですか?

●条文を参照してもよろしいでしょうか?

★もちろんもちろん(笑)。

●ありがとうございます。……えーと、民法634条2項です。すみません。その後段によって、同時履行の関係に立ちます(仕事の完成や目的物引渡しが本件において先履行にあることとゴッチャになってしまった…)。

★そうですね。この抗弁によって、Yは、全額の代金支払義務の履行を拒むことができるのですか?

●はい。

★なぜですか?

●瑕疵修補請求をした場合には、これと代金支払いの全額が同時履行の関係に立つのに、注文者が修補に代えて損害賠償請求を選択した場合には、対当額でしか同時履行を主張できないとなるとすると不均衡となってしまうからです。

★うんうん。瑕疵修補請求の場合との均衡から損害賠償のときも全額の履行を拒めると。この考え方は誰が言ってるのかな?

●…判例、です。

★そうだね。弁護士Qとしては、他に抗弁は考えられますか?

●はい。この瑕疵修補に代わる損害賠償請求権と代金支払請求権とを相殺するという抗弁が考えられます。

★うんうん。では、この同時履行の抗弁と相殺の抗弁、どちらがYにとって有利に働くと思いますか?

●…えーっと、…相殺をしてしまうと、…修補費用が100万円で……たしか請負代金が300万円と…請負代金の方が高額なので、相殺の意思表示をした翌日からYは200万円につき遅滞に陥ってしまいます。…なので、Yとしては、当面は同時履行の抗弁を主張する方が有利になると思います。

★なるほど。先ほど、あなたは相殺の意思表示の翌日から遅滞に陥るといいましたね。これも判例があるということは知っていますか?

●はい。知っています。

★うん。でも、相殺って、効力は相殺適状時まで遡って発生するものですよね。なぜ、相殺の意思表示をした日の翌日から遅滞に陥るとされていると思いますか?

●……、たしかに、本来、相殺の効力は相殺適状時まで遡って効力を生じますが、相殺適状時にまで効力が遡及しても…、これまで同時履行にあって遅滞が違法でないということについてまで…遡って効力が生じるわけではない…と思います。

★うん。では、あなたとしては、相殺の抗弁よりも同時履行の抗弁を主張する方が、Yにとって有利である。そう考えているのですね?

●はい。

★では、次に、手続的なこともお聞きしますね。先ほどあなたは、請求原因事実として、X社が目的物を引き渡したことを主張する必要があるといいましたが、X社は、この事実を訴状に記載しないまま、これが被告に送達されました。被告は、答弁書を提出せず、第1回口頭弁論期日も欠席しました。この場合、期日はどのように進みますか?

●…えーと……、答弁書も提出していないのですよね?

★そうです。

●でしたら、…陳述擬制も働かないと思いますし…

★陳述擬制といいましたが、陳述擬制の条文の近くに何かないですかね?法文を参照してみてください。

●………えーっと、…今、民事訴訟法の158条・159条あたりを見ているのですが…

★161条3項がありますよね。読み上げてもらっていいですか?

●はい。相手方が在廷していない口頭弁論においては、準備書面に記載した事実でなければ、主張することができない。とあります。

★そうですね。X社は、訴状に記載した事実しか主張できないと。こうなるのですね。そういうことでよろしいですか?

●はい(やってしまった…)。

★では、次に、弁護士Pが、X社からの聞き取りを進めたところ、本件の工事は、下請業者に委託をしていて、そこで瑕疵を生じさせてしまったらしいという事実が判明したとします。弁護士Pとして、下請業者に対し、訴訟上何か手段をとることはできますか?

●訴訟告知をすることが考えられます。

★うんうん。そうだね。下請業者としては、本件のX社・Y間の訴訟にどのように加わってくのかな?

●補助参加をすると思います。

★そうだね。仮に、下請業者が補助参加してこなかった場合には、どうなるのかな?

●訴訟告知がされると…、被告知者が参加しなくても、参加できた時に参加したものと扱われるので、結局、訴訟告知の効力は被告知者である下請業者にも及ぶことになります。

★うんうん。では、参加的効力の内容を教えてください。

●はい。…参加的効力とは、…告知者と被告知者間における…告知者が敗訴した場合における、その敗訴判決の主文及び理由中判断の拘束力をいいます。

★うん。訴訟告知者が敗訴した場合の効力なんですよね。
では、本件は建築請負訴訟ですが、その瑕疵などについては、かなり専門的な知識が必要になってくると思います。訴訟当事者としては、こういう専門的なことを証拠として提出するために、どのような手段が考えられますか?

●はい。鑑定を依頼すると思います。

★うん。依頼すると、訴訟の場にはどうやって現れてくるのですか?

●専門家に鑑定書をつくってもらって、書証として提出します。

★なるほど。他にはありますか?

●えーっと…鑑定嘱託の発動を申し立てたり…。

★(笑)。うーん。他にもありますよね?

●鑑定人に意見を述べてもらうという方法があります(これが聞きたかったのか…)。

★そうですね。では、今度は、裁判所の側から、裁判官の判断をサポートするための方法は何かありますか?

●専門委員制度の活用が考えられます。

★うんうん。鑑定と専門委員とは、何が違うのか説明できますか?

●はい。…まず、専門委員は、あくまでも裁判所の経験則や知識を補充・補完するという役割を果たすものなので、証拠資料とはなりません。これに対して、鑑定の場合は、…証拠資料になります。

★そうですね。証拠になるかが違うんですよね。
では、今度は、時間を少し戻しまして、建築業界にはZという有名人がいまして、このZという人物は、建築工事のトラブルに対して、当事者間の争いを解決したり・弁護士を紹介したりして、当事者から手数料を受けているとします。今回のX社・Y間の紛争もZから話を持ち込まれたものだとします。この話を受けた弁護士Pとして、事件を受任することに何か問題はありますか?

●…非弁提携にあたってしまうおそれがあるので。問題があるかと…。

★ほう。すぐ出てきましたね。条文の根拠は分かりますか?

●…弁護士法の72条…あたりだったと思います。

★うん。法文にも弁護士法が載っているので、参照しながら、あてはめてもらっていいですか?時間が近づいてきてあれですが(笑)。

●はい。まず、Pは「弁護士」ですので……っと、すみません。「弁護士でない者は」とあるので、まず、Zさんがこれにあたります。また、持ち込まれたのはX社・Y間の紛争であり「訴訟事件」にあたります。次に、「報酬を得る目的」については事情が分かりませんが…

★Zは、手数料を受けているということでしたよ。

●すみません。とすると手数料という「報酬を得る目的」の要件も満たします。そして、「周旋することを業とすることができない」とされているので、Zさんが弁護士Pに話を持ちかけることは許されません。

★そうですね。でも、弁護士法72条は、要するに非弁行為を禁止している条文ですよね。弁護士が非弁行為者と提携してはいけないという根拠はあるのですか?

●たしか…弁護士職務基本規程に規定があったと思います。

★うん。何条ですか?条文を参照してもらって構いません。

●……11条です。

★うん。そうですね。(副査に向かって)何かございますか?(副査は首を横に振る。)では、私たちからは以上になります。お疲れさまでした。

●はい。ありがとうございました。

3 雑感

 請負の要件事実を聞かれ、しかも事案が初日に比べかなり複雑だったので、一瞬頭の中が真っ白になってしまいました。再現で文字にするとしっかり答えているように見えますが、実際は結構しどろもどろです。
また、請負の要件事実は、類型別には載っておらず、ほぼ知らなかったので、受け答えをしっかりやって、後は誘導に乗ろうという気持ちで臨みました。
 一番の失態は、民訴法161条3項が答えられなかったことです。この条文は、平成25年度の司法試験短答で問われていた条文でもあったので、答えてしかるべきものでした。