【知的財産法】両科目とも4枚末行目まで
●特許法
[設問1]
第1 乙行為1について
⒈ 本件発明は「物の発明」(特許法(以下、略)2条3号)である。甲は本件発明の本件特許権者(68条本文)であり、乙行為1は、その「技術的範囲」(70条1項)に属する医薬品を、乙が甲に無断で製造、つまり「生産」するものであり「実施」(2条3項1号)にあたる。甲は、乙が特許権を侵害したから、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を主張する。なお、乙の過失は推定される(103条)。
⒉ これに対して、乙は、乙行為1は「試験又は研究のため」の「実施」であると主張する(69条1項)。本件で、乙は、製法Aにより生産される化合物αの医薬品が所定の効能を有するかどうか疑問を抱いたために乙行為1をしているのであって「試験又は研究のため」の「実施」にあたる。これは、本件発明が進歩性(29条2項)を欠くとして無効事由(123条1項2号)があるかを調べるのにも資する。
⒊ 乙の主張は正当であるから、甲の請求は認められない。
第2 乙行為2について
⒈ 甲は、上記乙行為1の場合と同様に、乙行為2も本件特許権を侵害するとして、損害賠償請求をすると主張する。乙行為2は、乙行為1と異なり、新たな医薬品を開発するためであり、69条1項は成立しないと主張する。
⒉ これに対して、乙は、乙行為2も「試験又は研究のため」の「実施」であり69条1項が成立すると主張する。すなわち、法の目的は、発明の公開の代償として特許権という独占権(68条本文、100条)を与え、他の者は公開された発明を参考に新たな技術を生み出しそれを発明として公開して特許権をえるという相乗効果によって、産業の発達に寄与することにある(1条)。そして69条1項の趣旨は、「試験又は研究」の「実施」を許容することで、この相乗効果を促し、法の目的を達成させること、にある。故に、新薬研究目的でも「試験又は研究のため」の「実施」にあたる。
⒊ 乙の主張は正当であり、甲の主張は失当だから、甲の請求は認められない。
第3 乙行為3について
⒈ 甲は、乙行為1・2と同様に、乙行為3も本件特許権を無断で「実施」するものであるから、その差止(100条各項)と損害賠償を請求すると主張する。
⒉ これに対して、乙は、本件発明のクレームには「製法Aによって生産」という限定がついていることから、本件特許権は製法Aによって生産された物にしか及ばない(プロダクト・バイ・プロセスクレーム)。Bカプセルは製法Bにより生産されているから、本件特許権の侵害ではないと主張する。
すなわち、特許請求の技術的範囲は、その範囲に属する実施が特許権侵害になるということを第三者に明示する警告的意味合いがあるから、原則として、物の発明のクレームにその製法を記載すれば、その特許権は、当該製法により生産された物にしか及ばない(不真正プロダクトバイプロセスクレーム)。しかし、例外的に、その物の発明を製法によってしか特定できないような事情があるときは、当該製法に限定なく、その物の実施であれば特許権が及ぶ(真正プロダクトバイプロセスクレーム)。本件で、甲が本件発明を製法Aに限定した理由は、公知による新規性喪失事由(29条1項3号)を避けるために補正(17条)をしたからであり、製法Aの記載がなければ本件発明が特定できなかったわけではない。故に、本件発明は製法Aにより生産された物に限定される。
⒊ 以上より、乙の主張が正当であり、甲の主張は失当だから、甲の各請求は認められない。
[設問2]
第1 丙行為1について
⒈ 甲は、無断でされた丙行為1は、本件特許権を侵害するとして、損害賠償請求を主張する。そして、薬事法所定の申請目的での実施は「試験又は研究のため」の「実施」にはあたらない主張する。
⒉ これに対して、丙は、薬事法の承認申請目的でも69条1項が成立すると主張する。なぜなら、69条1項の文言上、その目的に限定は付されていないこと、また、これに69条1項の適用を否定すると、特許権が期間満了(67条1項)により効力を失った後・承認申請を受けるまでの期間、実質的に特許権の効力が延長される結果と等しくなる。これは、特許が期間満了となった場合その技術はパブリックドメインとなるとする法の目的(1条)に著しくもとるからである。判例も同様に考えている。と主張する。
⒊ 丙の主張が正当であり、甲の主張は失当であるから、甲の請求は認められない。
第2 丙行為2について
⒈ 甲は、丙行為1と同様に、丙行為2も本件特許権侵害であるとして、損害賠償請求を主張する。そして、市場調査目的は、薬事法の承認申請目的ではなく、69条1項の適用はないと主張する。
⒉ これに対して、丙は、「実施」として即時販売するためには、あらかじめ一定期間の市場調査が必要なのであって、これ認めないと、その調査期間分だけ実質延長登録がされた結果となるから、上記判例の理由が妥当する。故に、69条1項が成立すると主張できる。
第3 丙行為3について
⒈ 甲は、丙行為1・2と同様に、丙行為3も本件特許権侵害であるとして、損害賠償を主張する。そして、将来の販売目的の大量生産には69条1項は成立しないと主張する。
⒉ これに対して、丙は、将来販売目的でも、即時販売の必要があるから、実質的な特許権の延長とならないために、69条1項の適用があると主張する。しかし、将来販売目的は「試験」「研究」とはいえないし、「生産」行為そのものだから、この主張は認められないだろう。
[設問3]
⒈ 甲は、丁は制約会社であるから、D錠の製造販売は「業として」の「実施」であり、本件特許権を侵害するとして、その差止を主張する。
⒉ これに対して、丁は、消尽を主張する。消尽とは、特許権者又はその許諾を受けた者が、特許製品を適法に譲渡した場合は、それ以降の使用・譲渡等に特許権が及ばないこと、をいう。なぜなら、たしかに、文言上「実施」には権利者が譲渡後の実施にも及ぶのだが、①特許権者に二重の利得の機会を与える必要はなく、②特許製品の自由な流通・取引安全を害し1条の目的にもとるからである。本件で、D錠は、Aカプセルを市場で大量購入したうえでこれを「実施」したものだから、本件特許権の効力は及ばない主張する。
⒊ さらにこれに対して、甲は、「新たに製造」にあたる場合には消尽の理由①②が妥当しないから、消尽しない。「新たに製造」かは、ⅰ特許発明の内容、ⅱ特許製品の属性、ⅲ部材の交換や加工の態様、ⅳ取引の実情などを考慮して決する。本件で、丁は、Aカプセル溶かして再精製している(ⅲ)。故に「新たに製造」にあたる。と主張する。
⒋ これに対して、丁は、本件発明の核はαにあり(ⅰ)、Aカプセル(ⅱ)を溶かしただけで、αに化学反応が生じぬように取り出しているだけだから(ⅲ)、「新たに製造」にはあたらない。判例も同様である。甲の請求は認められない、と主張できる。
●著作権法
第1 前提
⒈⑴ 前提として、本件での権利関係を整理する。まず、A住居は「建築の著作物」(著作権法(以下、略)2条1項1号、10条1項7号)にあたるか。たしかに、建築物は設計方法が限られており個性発揮の余地が狭いし、これに著作権を認めると建物をつくることがほぼ禁止(112条)されるおそれがあるから、建築芸術といえなければ著作物性が認められないと考える。しかし、本件では、A住居は、Bが奇抜なデザインをしたのであり、また、現に建築されると評判を生み見物人が絶えなかったとう事情があり、建築芸術といえるから、「建築の著作物」である。
⑵ また、設計図αについては、設計図はその作図方法だけでなくその建築物の創作性も化体しているから(2条1項15号ロ参照)、A住居の創作性も加味すれば、「図面の著作物」(2条1項1号、10条1項6号)にあたる。
⒉ そして、設計図α・A住居ともに「創作」したのはBであり、Bは設計図α・A住居の「著作者」(2条1項2号)であり、それぞれの著作権者・著作者人格権者である(17条各項)。
なお、設計図αについては、AがそのコピーにあったBの氏名を消したうえで、人的結合関係のない複数の建築業者たる「公衆」(2条5項)に「提供」しているから、Aが著作者と推定されるが(14条)、Bが著作者であることは明らかであるから、この推定は覆る。
第2 設問1
⒈⑴ AとBは、A住居の請負契約(民法632条)を締結していたが、解除されている。その後、Aは設計図αの返却前に、これをコピーしており「複製」(2条1項15号)にあたる。なお、Aは上記のようにこのコピーを複数の業者に見せる目的があったから「私的使用」(30条1項)も成立しない。Aのコピー行為は設計図αの複製権(21条)を侵害する。
⑵ またこのAが設計図αには、A住居の創作性が化体しているから、Aのコピー行為はA住居の複製権侵害となる。
⑶ さらに、Aは、建築業者Cを手足として、CをしてA住居を建築した。これはA住居の「複製」(2条1項15号ロ)であり、この行為は、A住居の複製権を侵害する。
⒉⑴ さらに、請負契約の解除の時は、未だ設計図αはA・B以外には知られていなかった。故に、A住居の建築は、A住居の「公表」(4条1項括弧書参照)であり、公表権(18条1項前段)の侵害になる。
⑵ア また、Aは、設計図αにあった設計者Bの氏名を消して、人的結合関係のない「公衆」である複数の建築業者に「提供」しているから、設計図αの氏名表示権(19条1項前段)を侵害する。
イ なお、A住居については、Bの氏名を著作者として表示して建築がされているわけではないが、通常建築に著作者名を表示する慣行はないから、A住居の氏名表示権の侵害はない(19条3項)。
⒊ 以上より、Bは、Aに対して、設計図αとA住居の複製権侵害、A住居の公表権侵害、設計図αの氏名表示権侵害を理由に、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)ができる。なお、各行為は既に終了しているから、差止請求(112条1項)や必要な措置請求(同条2項)はできない。また、氏名表示権侵害については、設計図αの設計者をBに「訂正」するように請求できる(115条)。
第3 設問2
⒈ Dは、A住居をやや地味に改築した。この行為に同一性保持権(20条1項)を侵害しないか。
ア まず、同一性保持権は人格権であるから「意に反する」かは、権利者の主観を基準に判断する。故に、Aが請求をしている以上「意に反する」といえる。
イ また、「改変」というためには、著作物の創作性ある部分を変更する必要がある。本件で、A住居の創作性はその斬新なデザインにあったから、これを地味にすることは「改変」にあたる。
⒉ もっとも、Dの行為は、20条2項2号の「改築」にあたらないか。20条2項2号の趣旨は、著作者人格権の保護と、建物の本来的利用の要請の調整にあるから、「改築」というためには、老朽化のためなど建物の通常の利用のため客観的に必要な改築であることを要すると考える。
本件で、A住居は老朽化したといった事情はなく、Dは、玄関が派手すぎるからという主観的な理由での改築である。また、Dは、A住居が斬新なデザインであることを織り込み済みで購入しているはずである(下見などをしてるはず)。
故に、「改変」にあたる。
⒊ したがって、Bは、Dに対して、A住居の同一性保持権侵害を理由に、損害賠償請求ができる。もっとも、改変行為自体は終了しているから、差止請求や必要な措置の請求はできない。なぜなら、同一性保持権といっても、改変がされないことを保障するにとどまり、その著作物の状態を保護するものではないからである。
第4 設問3
⒈ Eは、Dに無断で写真撮影をしているから、A住居の複製権を侵害する。また、A住居のミニュチュアを多数製作しており、これも複製権を侵害する。また、ミニチュアの販売は譲渡権(26条の2第1項)を侵害する。
⒉ア もっとも、「建築の著作物」は「いずれの方法を問わず、利用」できるから、権利制限がされないか(46条柱書)。本件では、46条4号該当性が問題となる。
イ(ア) まず、前述のように、A住居は建築芸術であるから、「美術の著作物」(46条4号、10条1項4号)でもある。
(イ) また、「専ら……販売を目的」かは、販売目的・態様などを考慮して決する。本件では、Dはミニュチュアを多数製作しているから、これにあたる。
⒊ 以上より、DはBの複製権・譲渡権を侵害するから、BはDに損害賠償請求ができる。また、製作・販売については、差止請求やミニチュアの廃棄等の請求ができる(112条各項)。
以上