【会社法】5頁末行まで
[設問1]
第1 Cの主張とその当否について
⒈ まず、Cは、本件株式発行の無効確認の訴え(会社法(以下、略)828条1項2号)を主張することが考えられる。しかし、本件株式発行は、平成24年6月10日にされた旨の登記が同年同月20日にされており(別紙)、現時点は平成26年4月であるから、「1年以内」(828条1項2号括弧書。公社は非公開会社である(別紙))とはいえない。故に、この主張は認められない。
⒉ そこで、Cは、本件株式発行の不存在確認(829条1号)を「訴えをもって」(同条号柱書)請求(主張)すべきである。
⑴ まず、新株発行不存在確認の訴えには、828条2項2号のような原告適格の規定はない。しかし、新株発行不存在確認の訴えには、その性質に沿う限り、新株発行無効の訴えの規定が類推されるところ、本件で、Cは甲社株50株を有するの株主であり、また、その取締役でもあるから、「株主等」(828条2項1号括弧書)にあたるから、原告適格がある(828条2項2号類推)。
⑵ア また、「存在しない」(829条柱書)とは、新株発行がされた事実は存在しないのにもかかわらずそれがされたような外形がある場合、をいう。
イ 本件では、Eは甲社の取締役に選任(329条)された事実はない。また、本件株式発行のための手続がされた事実はない。にもかかわらず、Eは、株主全員の賛成があった旨の株主総会議事録を作成し、その旨の登記をしているから、外形がある。
たしかに、Eは、4000万円の賃貸用の土地を出資している(208条2項、207条9項4号)。しかし、Eは、Dを介して、A・Cに対して、本件株式発行は断念したと嘘をついて、本件株式発行無効の訴えをさせていないのであって、出資があるとしてもこれを存在すると評価することはできない。
ウ 故に、本件株式発行は「存在しない」。
⑶ 次に、829条1号の訴えには、828条1項2号の出訴期間の規定は類推されない。なぜなら、前述のように、829条1号の訴えには、その性質に沿う限り新株発行無効の訴えの規定が類推されるが、出訴期間を過ぎた場合に新株発行不存在確認の訴えを認めたのに、これに同様の出訴期間を認めると、新株発行不存在確認の訴えが無意味になってしまい、その性質に沿わないからである。
⒊ 故に、Cの829条1号の主張は認められる。
第2 法律関係について
⒈ Eは、甲社に対して、賃貸用の土地の不当利得返還請求(民法703条)ができる。
⒉ もっとも、甲社は、Eに対して、その土地が生む毎年の収益100万円を返還する必要はない(現存利益。上記のように、A・甲社は不存在につき善意である)。
[設問2]
第1 表見代表取締役(354条)について
⒈ 前述のように、Eは、甲社の取締役として選任されていないのに、甲社を代表して、本件借入れをしている。
⑴ まず、甲社は「株式会社」である。
⑵ また、Eは、Aから「副社長」という肩書きを「付」されている。
⑶ア 次に、甲社からは、Eは「取締役」ではないから354条が適用されないと主張すると考える。対して、Hは、本条の類推があると主張すると考える。
イ 354条の趣旨は、株式会社が、代表者でないものに代表者と受け取られる名称を付したという帰責性を基に、この外観を信頼した第三者を保護することで取引の安全を図ることにある。そこで、「取締役」でなく、被用者に外観を付した場合であっても、本条は類推されると考える。
ウ 本件で、本件借入れ当時、Eは、甲社で勤務を開始していたのであり、被用者である。そして、Aは、上記のように、Eに副社長という肩書きを付している。故に、354条が類推される。甲社の主張は失当であり、Hの主張が正当である。
⑷ また、当時、Eは代表取締役として登記されていたので(別紙)、Hは「善意」であったといえる。
⒉ したがって、表見代表取締役の類推がある。
第2 「多額の借財」(362条4項2号)について
⒈ 本件借入れの額は2億であり、年10%の利息もついている。これは、甲社の年商・資本金(別紙)と同額または10倍であり(前述のように本件株式発行は不存在である)、甲社にとっては「多額の借財」にあたる。
⒉⑴ にもかかわらず、Eは、本件借入を無断で行っており、甲社取締役会の決議を欠く。このような場合でも、内部的意思決定を欠くだけであるから、原則として有効であり、例外的に、相手方が悪意又は善意有過失のときに、無効となると考える(民法93条類推)。そして、甲社としてはHに過失があると主張し、Hとしては自己に過失はないと主張すると考えられる。
⑵ 本件では、たしかに、額は高額であり、また、Eの説明もあいまいであったことから、Hは疑念を持つべきであったといえる。しかし、これを受けたHは、甲社の事業計画等の資料の交付を要求しており、一応、確認義務は尽くされたといえる。故に、Hは無過失であるから、甲者の主張は失当であり、Hの主張が正当である。
⑶ 本件借入は有効である。
第3 結論
以上より、本件借入れは甲社に帰属する。
[設問3]
第1 Cは株主代表訴訟(847条3項・5項)を提起して、E・Dに対し、①本件土地の所有権移転登記を求めること、②本件借入れにつき423条の対会社責任の追及をすること、を主張する。
第2 ①について
⒈ ①は「責任」(847条1項)にあたるか。株主代表訴訟の趣旨は、取締役間の仲間意識・馴れ合いによって、会社が取締役に対して請求をしないおそれがあるので、株主が会社を代表して取締役に対して請求をすることを認める点にある。これは取引によって生じた債務にも妥当するから、「責任」には、423条などの会社法所定の責任だけでなく、取引債務も含む。
⒉ 本件では、EはDを相続している。そして、物権的登記請求権は取引によって生じていないから「責任」にあたらないが、債権的登記請求はこれにあたる。
⒊ 故に、①は認められる。
第3 ②について
⒈ 423条1項の要件は、ⅰ役員等、ⅱ任務懈怠、ⅲ損害、ⅳ因果関係である。
⒉⑴ア 本件で、Eについては、取締役に選任された事実はない。また、Eは代表取締役として就任の登記がされているが(別紙)、Aは、Eに登記をしたことを説明しておらず、Eの明示の承認がないから908条2項の類推もできない。しかし、Eは、上記のように本件新株発行・借入れ・貸付けをしているから、事実上の「取締役」といえる。
イ 一方、Dは当時すでに取締役ではない(別紙)Eに対してアドバイスをするなど影響力をもっているが、Eは独断で動いており、その影響力は限られていたから、事実上の取締役とはいえない。
⑵ Eは、独断で動いておりⅱがある。
⑶ 甲社には2億のⅲ・ⅳが生じた。
⒊ ②については、Eに対する主張のみ認められる。
以上
★感想:
▷形式面について。実質途中答案です。
▷内容面について。一番怖い科目です。設問1について。不存在事由については、普通は出資があったら実体があるとして不存在とはいえないような気もします。法律関係については、839条の指摘を漏らしたのが悔しいです。また、無効確認の訴えが性質上なじむ限り類推されるのなら、840条あたりも類推されるのでしょうか。
設問2について。善意無過失の対象を書いていないので絶賛後悔中です。354条の対象は、その人がその会社の代表者であることについて(の善意無重過失)。民法93条類推の対象は、取締役会決議を経ていること(の善意無過失)。そして、この両者の関係についても触れるべきでした。354条が治癒するのは代表権の有無だけなので、その表見代表取締役が「多額の借財」について取締役会決議を経ていない場合は、別途その内部的意思決定がなかったことにつき善意無過失でなければ取引は無効であり、結局本件借入れの効力は甲社に帰属しない、的なことを。また、設問2でも908条の話はできたような気がしています。
設問3について。もっと事実を拾って、Eが甲社の事実上の主催者であることを認定すべきでした。また、株主代表訴訟については、①につき、E自身が取引によって登記移転登記手続債務を負った訳ではなく、それをDから相続したことをもう少し丁寧に書くべきでした。また、①でも事実上の取締役の指摘が必要だったと思います。②については、言い訳しようがないです。本件貸付けも、ⅲにつき「重要な業務執行の決定」(362条4項柱書)であり取締役会決議が必要ですし、経営判断原則が妥当するのかどうかなど、もっと書くべき事は多いはずです。会社法はまだまだボロが出てきそうな科目で、一番怖いですね。。