【刑事訴訟法】6頁目の20行目くらい
[設問1]
第1 ①と②の甲の取調べの適法性について
⒈ P・Qらは、甲に対して、連日にわたり宿泊を伴う「取り調べ」(刑事訴訟法(以下、略)198条1項本文)をしているが、これは適法か。
被疑者に対する取り調べは任意捜査なので、「強制の手段」(197条1項但書)によることは許されない。そして、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、身体・住居・財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を達成する手段、をいう。
本件では、甲に対して、宿泊に伴う取り調べが連日されているから、これが実質「逮捕」(199条以下)にあたれば、①と②の甲の取調べは、強制処分法定主義(197条1項但書)・令状主義(憲法33条、35条)に反して違法となる。実質逮捕かどうかは、ⅰ同行を求めた時間帯・場所、ⅱ警察官の数や態度、ⅲ同行先の場所、ⅳ同行の方法、ⅴ同行中・同行後の監視体制などを考慮して判断する。
⒉ また、任意捜査であるとしても、取り調べに応じる被疑者の心身に負担がかかるから、事案の性質・被疑者に対する容疑の程度・被疑者の態度などを考慮して、社会通念上相当な方法ないし態様および限度において許されることとなると考える。
⒊ そこで、以下では、①と②の取調べにつき、実質的逮捕にあたるか・任意捜査として許容されるか、の順で検討する。
第2 ①の取調べについて
⒈ 実質的逮捕か
①の取調べは平成26年2月12日午前10時ごろにされているが、当日、甲は捜査員の同行なしに自らM署に出頭している(ⅰ・ⅱ)。また、前日の2月11日にも取調べがされているが、甲はそれに任意に応じているし、Hへの宿泊についても、甲自らが申し出ている(ⅱ)。さらに、その宿泊についても、捜査員が同宿したという事情もない(ⅴ)。
このように、①の取調べは、強制の契機のない平穏なものであって、実質的逮捕にはあたらない。
⒉ 任意捜査として許容されるか
甲の被疑事実は、Vに対する殺人・窃盗事件であり、他人の生命侵害を伴う重大犯罪であり、警察としては早期解決を使命とすべきである。そして、甲はダイヤモンドの指輪を質入れしたという情報があり、Wに確認をするとこれは盗まれたVの指輪に間違いないとの供述があり、また、甲はWのいとこでVに近い存在であるし、多額の借金のため夜逃げをしてたというのであって、犯罪の動機もあることから、甲に対する嫌疑は濃いといえる。さらに、甲は、前日11日の取調べの時には供述を変遷させていたのであり、事案の真相を明らかにすべく、さらに甲を取り調べる必要があった。
一方で、甲は、取調べの開始から①の取調べが終わるまで、取調べの中止を訴えたり、取調室からの退去を希望するといった事情もないのであり、平穏な取調べであったといえる。
故に、その方法・態様・限度において、社会通念上相当であるといえる。
⒊ ①の甲の取調べは適法である。
第3 ②の取調べについて
⒈ 実質的逮捕か
12日の夜の宿泊については、ⅴ甲はHの7階にある部屋に宿泊したのであり、逃げることができない状況だった。さらにその部屋は6畳和室と8畳和室から成り、甲が泊まった6畳間から外に出るためには、同宿するQらのいる8畳間を通らないといけなかった。Qは、ふすまで仕切られているから別室だというが、甲に対する監視体制は非常に厳しいものといえる(ⅴ)。
また、捜査官はQら3名である(ⅱ)。そして、13日に取り調べのためM署に出頭するのに、警察車両に乗せられており、これは通常の逮捕がされた状況と類似する(ⅲ・ⅳ)。たしかに、甲は、Pに説得され渋々「分かりました」と応じてはいたものの、これは、できる限り捜査官の意向に沿うように甲が応じているにすぎないためとも考えられるから、甲は心理的に圧迫されていたといえる。
故に、甲は意思を制圧されていたといえ、②の取調べのための宿泊は実質的逮捕である。②の取調べは違法である。
⒉ 任意捜査として許容されるか
仮に、実質的逮捕には至っていないとしても、たしかに、事案の重大性や甲に対する嫌疑の濃さは、前述と同様である。しかし、既に①の取調べの際に、甲は自供し、その調書も作られているし、甲はクラブを埋めた場所まで図指しているのであって、取調べを続ける必要性は減っている。
対して、甲は、11日から13日にわたって連日宿泊を伴う取調べを受けていて、前日はQらと同宿されられているのであって、心身への負担を無視することはできない。
故に、方法・態様・限度において相当とはいえない。
⒊ いずれにしても、②の取調べは違法である。
第3 ③の甲の取調べについて
⒈ この時点では、甲は起訴されており「被告人」である。被告人は公判の一方当事者である。法が当事者主義をとっていることからすると、任意の取調べであっても、被告人の防御権を不当に制約する場合は、比例原則に反し違法と考える(「必要な」(197条1項本文))。
⒉ たしかに、本件では、甲は取り調べに応じる旨述べているから任意処分である。そして、乙という共犯的人物が浮上してきたことから、事案の真相を甲に確かめる必要があったといえる。
しかし、③の取調べの後には公判前整理手続(316条の2以下)が予定されていたのであって、そこで事案の整理をすれば足りた(316条の5第3号参照)。また、同手続であれば弁護人が必要的であるが(316条の4)、Rは③の取調べの際に弁護人を立ち会わせておらず、316条の4の潜脱である。
⒊ 故に、③の取調べは甲の防御権の不当な制限するものであり、違法である。
[設問2]
⒈ 検察官は、資料第一の公訴事実については訴因変更を、第二の公訴事実については訴因変更と罰条変更を、それぞれ請求するという措置(312条1項)を講じるべきである。
訴因変更等は「公訴事実の同一性」(312条1項)がある限りで許される。「公訴事実の同一性」は、①狭義の同一性と、②単一性から成る。①は基本的事実に共通性があるかを主に、非両立性を従として判断する。②は実体法の一罪といえれば認められる。そして、①または②のいずれかがあれば、「公訴事実の同一性」がある。
なぜなら、「公訴事実」、つまり「訴因」(256条3項)は、裁判所の審判対象を画定し被告人の防御範囲を明確にする機能と、公判での一回的解決を調整する道具概念だからである。
⒉⑴ 本件で、第一の公訴事実については、新訴因と、日時が2月2日午後1時から2月3日午後1時となる点でことなるが、殺害手段等は共通するし、Vが死亡するという事実は一回しか起きえず、基本的事実は共通する。故に①がある。
⑵ また、第二の公訴事実は、②については、窃盗罪と盗品等罪は不可罰的事後行為であるから、実体法上の一罪とはいえない。
また、①については、たしかに、新訴因と日時・場所・行為が異なる。しかし、これはVの指輪の所在をめぐる1つの事実に対する法的評価の違いにすぎないのであって、基本的事実は共通する(1つしかないVの指輪を甲が窃取し、別途他から譲り受けるということは考え難い)。①がある。
⒊ 以上より、「公訴事実の同一性」があるから、上記請求は認められる。
以上
★感想:
▷形式面について。設問2は1頁ちょっとしか書けなかったのがまずいです。。言い訳になってしまいますが、設問1に記述を割いた理由は、❶辰巳の直前模試で高輪グリーンマンションが出たので、設問1はみんな書いてくるだろうから自分を負けずに書かなければと思ったこと、また、❷設問1の問題文は①②の取調べと③の取調べで項目分けがされていたことから、分量が多いと思ったこと(ただ、この項目分けは、①②の取調べと③の取調べでは問うていることが違いますよと誘導する意味合いしかなかったのかもしれないです。)、❸設問1はあてはめ勝負だろうし必然的に量が多くなるであろうこと、❹設問2は、訴因変更請求とその可否以外に書くべきことが思いつかなかったこと(ただ、第二の公訴事実については、訴因変更ができないのであれば、公訴を取り下げて追起訴する方法もあり得るのかなと思います。が、時間がなさそうだったので、構成段階で、第二の公訴事実も訴因変更可とすることに決めました)にあります。この判断が果たして吉とでるか否かが問題です。
▷内容面について。設問1については、①の取調べは適法だと思ったので当てはめをそれなりに書きました。②の取調べは、高輪グリーンマンションの事案だと、捜査官は同じホテルでも別室に泊まっていたという事情が異なることから、もうこれは強制でいいのではないかという判断をしましたが、これを違法とするのはちょっと筋が悪かったかもしれません。しかも高輪グリーンマンションでは、強制かどうかの判断はされていないので。。また、③の取調べについても、Rが公判前整理手続の際に事件の真相を知ったとしても、次までに整理してきますとなるだけでは期日が空転することになるので、公判維持の観点からすると、結論は適法とするのが筋だったような気がします。
設問2は、正直時間が足りませんでした。訴因変更の要否も書くべきですよね。他の受験生の筆記量次第だけれど、頑張った方だと信じたいです。