【再現答案】平成26年度司法試験刑事系第1問(刑法)

【刑法】7頁目の2~3行目くらいまで

第1 甲の罪責
 ⒈ 甲は、Aに授乳等を一切せずAは死亡しているが、この甲の行為に殺人罪(刑法(以下、略)199条)または保護責任者遺棄致死罪(219条)が成立しないか。まずは、重い罪である殺人罪から検討する。なお、両罪の区別は、殺意(199条、38条1項本文)の有無による。
 ⒉⑴ まず、Aは「人」(199条)である。
  ⑵ア 次に、甲の行為は、Aに授乳等を一切しないという不作為である。そこで不作為でも「殺した」(199条)といえるかが問題となる(不真正不作為犯)。
     実行行為とは、構成要件的結果発生の危険を有する行為をいう。この危険の創出は、不作為によっても可能である。また、刑法は、禁止命令だけでなく、一定の場合に作為を命ずる法規範である。故に、不作為でも実行行為性が認められる。もっとも、刑罰の謙抑性からして、ⅰ作為義務、ⅱ作為の可能性・容易性、ⅲ作為との同価値性、が認められる場合に限り認められると考える。
   イ(ア) 本件で、ⅰ甲はAの親権者であり、その監護義務がある(民法818条1項、820条)。また、Aは生後4ヶ月の乳児であり、自ら生命を維持することはできない。そして、Aは市販のミルクにアレルギーがあり、甲の母乳しか飲むことができないのであって、甲の母乳はAの生命維持にとって必要不可欠なものである。Aのいる甲方は、アパートの一室という公共空間と遮断された甲の支配する場所であり、Aの生命維持如何は甲の授乳等次第という状況にあった。故に、甲にはAに授乳等をする作為義務があったといえる。
    (イ) 次に、授乳等を一切しなくなってから24時間超でAの生命が危険になるとすると(事例①)上記作為義務は7月2日の朝以降には生じるといえるが、ⅱ甲はAに授乳等することが可能であった。また、一切の授乳をやめた7月1日の朝以降も、甲はAの世話をしていたのであるから、その際にAに授乳等をすることは容易であったといえる。
    (ウ) さらに、ⅲ上記のように、Aの生命維持のためには、甲の母乳が必要不可欠なのであって、Aの生き死には甲が支配していたのだから、甲の不作為は作為に同視できる。
    (エ) そして、Aは死亡している。
   ウ 故に、「殺した」にあたる。
 ⒊⑴ もっとも、甲の不作為とA死亡という結果の間には、(ア)丙も何ら措置を講じず見て見ぬふりをするという不作為や、(イ)Aを連れ出した乙に対しタクシー運転手が事故を起こすという事情が介在している。この場合でも因果関係があるといえるか。
    刑法上の因果関係は、実行行為の危険性が結果へと現実化したときに認められる。この判断は、(あ)実行行為の危険性の大小、(い)介在事情の結果への寄与度、(う)介在事情の異常性の大小、を考慮して決する。
  ⑵ア 本件をみるに、(あ)上記のように甲の母乳はAの生存に不可欠であるから、これを一切与えないという実行行為の危険性は非常に大きい。そして、授乳等を7月2日の朝以降にしていればAは十中八九救われたといえる。
   イ 次に、(い)につき、(ア)はAの死亡に寄与するものであるが、不作為であるので、甲の実行行為の危険性を遮断すしてまで結果を生じさせるものではない。
     また、(イ)は、たしかに、A死亡の直接の死因となっている。しかし、事故当時、いずれにせよ死亡が確実だったというのであり、上記実行行為の危険性の大きさを超えるものとまではいえない。
   ウ そして、(う)については、(ア)は丙はもともとAをうとんじており甲の不作為に誘発されたものといえるし、(イ)は甚だしい過失行為であるが、実行行為の危険性を超えないことは上記の通りである。
  ⑶ 故に、危険の現実化があり、因果関係がある。
 ⒋ さらに、甲は授乳等を一切しなくなった当初から確定的殺意があり、上記作為義務が生じた時に故意がある。
 ⒌ なお、甲は7月3日の夕方頃に授乳等を再開したが、結局Aは死亡しており、「中止した」とはいえないから、中止犯は成立しない(43条ただし書)。
 ⒍ 以上より、甲の行為には保護責任者遺棄致死罪ではなく、Aに対する殺人罪が成立する。

第2 丙の罪責
 ⒈ 丙は、甲の上記不作為に気づいたが見て見ぬふりをしている。この行為の、甲の犯罪との関与形態が問題となる。
  ⑴ まず、共同正犯(199条、60条)については、甲丙に明示の意思連絡はない。また、甲は、丙が上記不作為に気づいていないと思っているし、甲と丙は同棲してからまだ1か月ほどしかたっておらず、黙示の共謀も認められない。片面的共同正犯も認められない。
  ⑵ そこで、丙は、殺人罪の単独正犯か、幇助犯(62条1項)ということになる。両者の区別は、正犯意思の有無によりきまるが、丙はAをうとましく思っており、また、後述のようにAの死に重要な寄与をしているから、自己の犯罪としてする意思があり、単独正犯である。
 ⒉⑴ まず、Aは「人」である。
  ⑵ア また、ⅰ丙は、当初はAの世話をしていたし、上記のように甲方は丙の支配下にあった。そして、甲の母乳はAの生存に不可欠であり、丙は男であるから、母乳を与えることはできないが、水などをあげることはできた。のみならず、丙は、甲の母の訪問を嘘をついて妨げるこという行為にでており、これはAの生命侵害に向けられた行為ではないが、丙によるAの生命の支配を完全なものにしたといえ、少なくとも、7月3日の昼過ぎの時点に、丙には作為義務が生じたといえる。
   イ また、ⅱ丙は、この間Aを病院に連れて行くことが可能であったし、容易でもあったといえる。
   ウ さらに、ⅲ上記のように甲の母の訪問を排除したことは作為による殺人と匹敵するものであり同視できる。
  ⑶ そして、7月3日昼すぎにでは、甲が授乳等を一切しなくなってから未だ72時間を経過しておらず、Aを病院に連れて行けばAをほぼ確実に救うことができ(事例③④対照)、十中八九救命ができたといえる。介在事情については、タクシー運転手の過失行為があるが、これは甲の場合と同じく、因果関係を妨げない。因果関係もある。
  ⑷ さらに、丙は7月2日の時点で、丙はAがこのままでは確実に死亡すると思っていることから、A死亡の認識・認容があり、殺意も認められる。
 ⒊ 以上より、丙はAに対する殺人罪の単独正犯となる。

第3 乙の罪責
 ⒈ まず、乙は、甲方に立ち入っている。この行為に住居侵入罪(130条前段)が成立しないか。
 ⒉⑴ まず、甲方は甲・丙・Aが暮らしており、人の起臥寝食がされているから「人の住居」にあたる。
  ⑵ また、本罪の保護法益は、管理権者の、人を立ち入らせるかどうかの自由であるから、「侵入」とは、管理者の意思に反する立ち入り、をいうと考える。
    本件では、たしかに、以前乙は甲・Aと暮らしていたし、未だに甲方は乙名義で契約がされたままであり、また、乙は甲方の鍵を隠し持っている。しかし、乙は甲と別居し、甲方を出てから1か月がたっているし、その間は甲・丙・Aで暮らしていた。また、甲方のマスターキーとおぼしきものは甲が持っているし、家賃も甲が支払っている。すでに乙は、甲方の管理権を失ったといえる。そして、乙の立ち入りは、管理権者甲の意思に反するだろうといえ、「侵入」にあたる。
  ⑶ 故に、甲の行為には住居侵入罪が成立する。
 ⒉ 次に、乙は、Aをつれ去っているが、この行為には未成年者略取罪(224条)が成立する。なぜなら、Aは「未成年者」であるし、また、本罪の保護法益は未成年者の人身の自由だけでなく親権者の監護権でもあるところ、乙は、Aを自己の支配下に移したといえ「略取」したといえるからである。

第4 罪数
⒈ 以上より、乙には、住居侵入罪と未成年者略取罪が成立し、両罪は牽連犯(54条1項後段)となる。
⒉ また、甲と丙には、Aに対する殺人罪の単独正犯が、それぞれ成立する。

以上

★感想:
 ▷形式面について。やはり尻切れとんぼ感を拭うことができないというか実際に尻切れとんぼ答案です。
 ▷内容面について。甲と丙の不作為の殺人については、作為義務の内容・作為義務の発生時期・殺意がある時期との重複、を意識して書きました(途中からですが。。)。また、不作為の因果関係については、作為義務が生じた時点で特定の作為をしていれば十中八九救命可能であったといえる必要がありますが、結論的には、甲についてはこれを否定するべきでした。また、丙についても、母の訪問を排除した時点から作為義務を認めると、事例③④にてらして十中八九とはいえないとするのが筋だったと思います。すると、7月3日昼過ぎ以降の生じた丙の作為義務の不作為は、A死亡については因果関係を欠くが、甲の不作為について精神的な因果の寄与があるため幇助犯である、というのが筋だったなと刑法後刑訴前の休み時間に気づきました。。刑訴でも結論の座りが悪かったと思いますが、刑法も同様にやってしまいました。どの科目もそうだけれど、特に刑事系は結論の妥当性が重視されていると思うので、やらかした感が否めません。また、甲は丙に嫌われたくない一心で不作為をしていることからすると、作為義務(具体的作為義務として丙が甲に授乳をした方がいいとさえ言えばAは死なずにすんだ)・正犯意思(重要な心理的因果性)のあたりで、丙の甲に対する精神的な影響力を指摘して評価するべきでした。この点は、周りの受験生も絶対書いているはずですので、ちょっとまずいですね。乙については、違法性阻却についても書くべきでしたが失念しました。

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