【再現】平成25年度予備試験口述~刑事系~

1 はじめに

 今回の投稿は、平成25年度予備試験口述の刑事系です。
 この口述試験の再現の詳細については、「平成25年度予備試験口述~民事系~で述べたとおりです。

 今回の再現は刑事系の初日の問題になります。

2 再現

●○室○番です。よろしくお願い致します。
★では、座ってください。
●失礼します。(着席と…。落ち着いていこう。)

★では、これから事案を読み上げますので、よく聞いてください。聞き取れなかったところがあれば、その旨伝えていただいて構いません。いいですか?
●はい。

★被疑者Aは、被害者宅に侵入し、そこにあった財布を手に取りポケットの中に入れました。財布には現金3万円とキャッシュカードが入っていたとします。Aは、寝室で寝ていた被害者が目を覚ましたため、見つかってしまいました。そこで、Aは、捕まらまいとし、被害者に反抗抑圧するに足りる暴行を加え、被害者宅から逃走しました。こういう事案です。
よろしいですね?

●はい(がっつり実体法か…)。

★うん。では、このとき、Aの行為には何罪が成立しますか?

●Aの行為には住居侵入罪と事後強盗罪が成立すると思います。

★そうですね。事後強盗罪の構成要件は分かりますか?

●窃盗であること、逮捕を免れるため・財物の取り返しを防ぐ目的などをもって暴行・脅迫を加えたことです(他にも目的があったような。思い出せない)。

★うん。そうだね。暴行や脅迫の程度は、反抗を抑圧するに足りる程度のものである必要がありますよね?

●あ、はい。そうです(そうか。事後強盗もあくまで強盗ですもんね…)。

★では、先の事案を少し変えます。A財布をポケットに入れました。Aは、その中にはキャッシュカードが入っていたため、その暗証番号を聞き出すために被害者を起こしました。そして、Aは、やはり反抗抑圧するに足りる暴行を加え、被害者から暗証番号を聞き出しました。この場合、Aの行為には何罪が成立しますか?

●Aには、住居侵入罪と…強盗罪が成立すると思います(東京高判の裁判例のやつかな…?)。

★なるほど。具体的には、どういう強盗罪が成立するのですか?

●えー…、さんびゃ…、っすみません。刑法236条1…いや、2項の強盗罪が成立すると思います(あ、危ない。落ち着かないと…)。

★2項ね(笑)。こういう強盗罪の類型は、一般的に、何と呼ばれていますか?

●2項強盗や利益強盗と呼ばれています。

★そうですね。あなたは2項強盗が成立するとおっしゃいましたが、Aは暗証番号を聞き出しただけなのですよね?暗証番号というのは、刑法236条2項の「財産上不法な利益」にあたるのですか?

●えーと…Aは既に被害者のキャッシュカードを窃取しているという前提でよろしいのでしょうか…?(あれ?もしかして誘導されてるのか?それとも裁判例を聞いてるのか?…とりあえず考える時間を稼ごう…)

★そうです。Aは既に財布を窃取した段階です。財布の中にはキャッシュカードが入っていたことに気づき、暗証番号を聞き出しました。こういう事案を前提にしてください。

●……はい。分かりました。…キャッシュカードと暗証番号の両者を併せ持つ状態にある者は、いつでもATMにある預金の払い戻しを受ける地位に立つことになるので、すでにキャッシュカードを有している者にとって、そのカードの暗証番号は、財産上の利益にあたるといえます。
Aは既に被害者のキャッシュカードを持っていますから、この状態での暗証番号という情報は「財産上不法な利益」にあたると考えます(ここは裁判例に従ってみよう)。

★なるほど。あなたはその様に考えているのですね。でも、この場合、被害者に「損害」というものは発生しているのでしょうか?

●……たしかに、まだ被害者は、Aに現金を引き出されたわけではありません。しかし、Aがいつでも被害者の預金をATMから引き出せる地位に立った時点で、逆に被害者は自分の預金を他人にいつでも引き出されてしまい、預金の安全性が揺らいでしまいます。…損害はあると考えます(たしか裁判例は、損害についても判示していたような…。その言い回しが思い出せない…)。

★うん。では、被害者が、暗証番号を吐いてしまった後、すぐに、取引銀行に対して自己の口座の取引停止を申し出て、実際に、被害者の口座からは現金が引き出せなくなった場合、2項強盗は既遂ですか?未遂ですか?

●……それは、2項強盗についてですか?それとも、後にAがATMから現金を引き出す行為についてでしょうか…?(やっぱり誘導されているのか?考える時間を稼ごう。)

★2項強盗についてです。後の窃盗や詐欺については考えていただかなくて結構ですよ。

●はい。…先ほど述べた様に、キャッシュカードと暗証番号を有するに至った時点で、「財産上不法な利益」を有したことになると考えるので、この両者を併有するに至った時点で2項強盗罪は既遂になると考えます。…被害者が銀行に取引停止を申し出たのは、2項強盗が既遂になった後のことですから、2項強盗の既遂・未遂については、影響を及ぼさない事情であると考えます(暗証番号をゲットした時点で2項強盗を認めるとすると、素直に考えればこうなるはず…)。

★なるほど。あなたの考え方によると、そのようになるのですね…?

●…はい(これでよかったのだろうか…。)

★いいでしょう。では、他にAの行為に犯罪が成立しませんか?

●…暗証番号を聞き出した事例でよろしいのでしょうか?(どうしよう。分からん。)

★そうです。Aが被害者の財布を窃取し、その中にキャッシュカードがあることに気がついたため、被害者から暗証番号を吐かせた事案です。

●…うーん。…!!……強要罪も成立すると思います。(あ、危ない…!)

★そうですね。一応、強要罪も成立しえますね。では実体法は以上です。次は手続法についてです。事案を読み上げますので、よく聞いてくださいね。

●はい。

★Aは事後強盗罪の被疑事実で逮捕されました。Aの身柄拘束中に、A方を捜索場所とする捜索差押許可状が発布され、捜査官らはA方に赴きました。Aは母と同居をしていたので、捜査官らは母に令状を呈示し、捜索差押に着手しました。捜索中、Aの部屋から透明な袋にパッケージされた白い粉末状の物が発見されました。母に承諾をとって覚せい剤の予試験をしたところ、陽性反応、つまり、覚せい剤であるとの反応が出ました。捜査官らは、この覚せい剤を捜索差押許可状に基づいて差し押さえることができますか?

●できないと考えます。

★なぜですか?理由を教えてください。

●はい。令状による差押をするためには、対象物が令状に明記されていることや、被疑事実との関連性が認められることが必要です。本件の被疑事実は事後強盗罪なので、差押対象物に覚せい剤が明記されているとは考えられないですし、事後強盗罪と覚せい剤との間に関連性は認められないからです。

★では、捜査官側としては、この覚せい剤を確保する手段として、どのようなものが考えられますか?

●はい。まず、同居の母がいるということなので、母から承諾をとり任意に覚せい剤を提出させたうえで、これを領置するという手段があります。また、改めて覚せい剤の所持や使用を被疑事実とした捜索差押許可状の発布を受けたうえで差押をする手段も考えられます。

★そうですね。では、捜査官らは、母が任意の提出を拒んでいるのにもかかわらず、強引に覚せい剤を差し押さえてしまったとします。後に、Aは覚せい剤所持の罪で公判請求され、その覚せい剤が証拠として証拠調請求がされました。この場合に何が問題になりますか?

●違法収集証拠排除法則が適用されて、覚せい剤の証拠能力が否定されるのかが問題となります。

★そうですね。本件で、覚せい剤の証拠能力は認められますか?

●…えー…そうですね…判例は、違法収集証拠につき、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、将来の違法捜査を抑制するという見地からこれを証拠とすることが相当でないと認めるときに、証拠能力を否定しています。本件では、まず、本来別途捜索差押許可状が必要であるのに、事後強盗を被疑事実とした令状で覚せい剤を強引に差し押さえているので、令状主義を没却するような重大な違法はあるのではないかと考えます。
しかし、将来の違法捜査抑制の見地から相当でないことについては…捜査官の主観的意図などの事情が明らかではないので……判断し難いです。。このままでは、覚せい剤の証拠能力は認めれられる……可能性が大きいと思います(一元説か二元説かの話もした方がいいのだろうか…)。

★この事案では事情が少ないですね(笑)。では、事案を少し変えます。強引に差し押さえた覚せい剤を基に、Aに対する強制採尿令状が発布され、強制採尿がされその尿の鑑定書が作成されました。その後、Aの尿とその鑑定書が公判で証拠として取調請求されたとします。この場合には何が問題になりますか?

●えーっと…この場合……、強制採尿令状は、違法に収集された覚せい剤を資料として発布されているので、尿およびその鑑定書が、覚せい剤と密接関連性のある証拠とされ、違法収集証拠排除の法則が適用されることにより、証拠能力が否定されるのかが問題となります(この辺は学説もいっぱいあるし、端的に答えられないな…)。

★要するに、違法性の承継の問題ということですか?

●はい。そうです(これでよかったのか…そう言っておけばよかった)。

★はい。私からは以上になります。(副査に向かって)何かありますか?(副査は横に首を振る)
では、以上で終わります。

●は、はい。ありがとうございました!

3 雑感

 初日の刑事は、比較的上手くいったのではないかと考えています。
 ただし、暗証番号と利益強盗について、幾つか質問をぶつけられたので、これは私の解答を誘導しているためにしているのか、単に掘り下げた質問をしているのかが分からなかったので、不安な面もありつつ、2日目の民事系に臨みました。