【合格体験記】出題趣旨を外さないために ~本番中に考えること~

1 はじめに

最近、後輩から司法試験の勉強方法について質問を受けることが多いので、今回から合格体験記を兼ねて、幾つか記事を書いてみようと思いました。

合格体験記や一般的な勉強方法に関する素晴らしい書籍・ブログは数多く存在しており、私も受験生の時にかなり参考にさせて頂きました。しかし、これらの内容は、本番以外の時間に合格者はどのような準備をしていたのか、というものばかりでした。

実のところ、私が受験生時代に真に知りたかったことは、受験生、とりわけ合格者が「論文式試験の本番中に」どのようなことを考えながら合格答案を作成したのか、ということでした。ただ残念ながら、私の知る限りそのような内容の書籍・ブログ等を見たことがありません。
当たり前ですが、司法試験も試験である以上は「正解(筋)」、すなわち、出題者が想定する解答内容(=出題趣旨)が存在します。司法試験は、出題趣旨にどれだけ沿うことができたのかを相対評価により判定したうえで合否を決する競争試験です。

そこで今回は、掲題のとおり、「出題趣旨を外さないために ~本番中考えること~」と題して、合格者が(意識的にせよ、無意識的にせよ)本番中どのような視点から答案に書く内容を決めているのか、という思考過程の言語化を試みようと思います。なお、以下の内容は全ての問題について妥当するものではないことにご留意ください。

2 受験生が本番中に考えるべき事項の大枠

⑴ 大枠の概要
まず大前提として、受験生は「問いに答える」ことが必要です。

これを前提としたうえで、出題趣旨から外れないようにするために、本番中の受験生は、①何について書くか(何については書かないか)、②どれくらいの分量で書くか、を考える必要があります。言い換えれば、①は「どのような事項に配点がされているのか」、②は「どれくらい配点が与えられているのか」を考え、それを見極める訓練が必要だということです。

個人的な感覚では、①のレベルで合否が分かれ、②のレベルで合格者の順位が決まるという印象です。

⑵ 「論点」と「争点」
上記①②についてさらに換言すれば、「争点は何かを見極める」ということになります。配点とその割合は「争点」を中心に決定されていると言っても過言ではありません。

いわゆる「論点」とは、「問題文の事例を離れて存在する抽象的な解釈論」をいいます。これに対して、「争点」とは、「問題文の結論を左右し得るが故に問題となる解釈論(=論証)や事実認定論(=あてはめ)」をいいます。

よく「論点主義による弊害」という言葉をよく聞きますが、この場合における「論点」とは、上記の意味での「論点」を意味しています。たとえ抽象的な解釈論としての「論点」を知っていても、それが結論を左右するものでなければ「争点」ではないので、当該要件の解釈論を大展開することは御法度です。
「論点」に大きな配点がないことは、過去の出題趣旨・採点実感からも明らかです。あくまでも、当該事案との関係で問題となる解釈論や事実認定論を展開・検討する、ということが肝要です。

以下では、①と②で項目を分けて検討をしますが、これは投稿の便宜上の分類にすぎません。
①の内容が書く分量を決める参考になり、②の内容が書く事項を決める参考にもなる点にもご留意ください。

3 ①何について書くか(何については書かないか)

⑴ 書くべき事項・書く必要のない事項が指定されている場合
問題文や設問文中に、書くべき事項・書く必要のない事項が指定されている場合があります。当たり前ですが、この場合は、問題文や設問文の誘導に従いましょう。

こんなの誰だって大丈夫だろうと思う方もおられるかもしれませんが、本番は極限の緊張状態にあるので、注意が必要です。

現に、毎年公表されている採点実感において、その都度指摘がされているくらいなので、問題文はしっかり読みましょう。

明示的に(親切に)誘導がある場合もありますが、黙示的に(不親切に)誘導がされている場合もあります。たとえば、会社法の設問文は、「主張」「責任(追及)」「手段」「権限」という言葉を意識的に使い分けていると思われます。

また、問題文中の当事者の不満・言い分等が記載されている場合や、設問文中に書くべき事項が特定されている場合もあります。たとえば、平成26年憲法の問題文では、最後の文に「C社は,本条例自体が不当な競争制限であり違憲であると主張して,不許可処分取消訴訟を提起した。」との当事者の言い分があり、法令違憲のみを論じるべきことが示唆されています。

本番でこのような分析をするためには、普段から意識的に・真剣に問題文を読んだり、各年度の設問文や採点実感を照らし合わせるといった対策をする必要があります。

⑵ 法律効果から分析する
問題文を読んで、当該問題文中の当事者ならどのような結果(お金が欲しいのか、物が欲しいのか、行為をしてほしいのか等)を望むのかという視点を軸に、当事者が望む結論(法律効果)から条文を特定し、その要件を検討していくという分析方法です。

たとえば、平成26年民法の設問1では、問題文中に「今後6か月間,賃料は支払わない」「少なくとも今後6か月分の賃料は支払わなくてもよいはずである」「Aが賃料を支払わない状態が続いた。」との記載があり、設問文中には「AがCによる賃貸借契約の解除は認められないと主張するためには,」との記載があります。
これらの記載から、出題趣旨としては、解除の根拠が民法541条の履行遅滞解除にあること、また、Aの立場から同条の要件不充足(特に債務不履行がないこと)を主張して解除が無効であることを説明する必要があることの論述を求めていることが分かります。

本番でこのような分析をするためには、普段の勉強の際、法律効果の具体的内容を意識する必要があります。

⑶ 法律要件から分析する
問題文を読んで、与えられた事実群がどのような法律要件に関係しそうかという視点を軸に、出題趣旨で検討を求められているであろう条文を特定するという分析手法です。

たとえば、平成26年刑法では、甲に不作為による殺人の実行行為性を基礎付けるような事情が数多く散りばめられています。

本番でこのような分析をするためには、普段の勉強の際に、条文の趣旨や、法律要件とその典型例・限界例(判例の事案)を押さえる必要があります。

⑷ 他の受験生ならどうするかを考えて分析する
司法試験は相対評価の競争試験です。出題趣旨が検討を求めている事項でも、他の受験生のほとんどが触れることすらできていない事項を見落としても、合否に影響はありません。

合否に直結するのは、「出題趣旨が検討を求めている事項で、かつ、他の受験生の多くが触れてくるであろう事項」です。

合否は、これを漏らさず検討することができるか否かに左右されると言っても過言ではありません。

本番中に、他の受験生ならどうするのか?を的確に把握するためには、普段から、❶採点実感を分析する、❷自主ゼミの他の仲間ならどう考えるかを想像する、といった手法を取り入れる必要があります。

たとえば、❶採点実感には、検討できている受験生が「多かった」「少なかった」等、当該事項を検討した受験生の割合を示唆する指摘が多くあり、「受験生の実力の相場」を知るヒントが多く散りばめられています。なお、この点に関しては、ronnorさんのブログ記事「博士没後100周年記念企画「法学ガール」〜新司法試験商法平成20年過去問その2」が非常に参考になります。

また、たとえば、❷自主ゼミで論文演習をする際には、自分が検討漏れをした事項について、他の仲間はばっちり検討しているという事態がよく発生します。ことのときは、ショックを受けて落ち込むこともありますが、実は大チャンスです。

検討漏れの原因が自分の知識不足によるのであれば自分で勉強して補うしかありません。しかし、知識としては知っていたのに検討漏れをしていたのであれば、当該知識についての自分の理解に誤りがあったり、理解が足りない可能性が大です。

その際は、仲間はどのようにしてそのような検討をしようと思ったのか(問題文・設問文のどの部分を読んでそのような検討をしようと思ったのか、それはどうしてかといった思考過程)等を聞いてみましょう。これにより、自分自身の検討漏れの原因を分析することができます。

4 ②どれくらいの分量で書くか

⑴ 与えられた事実の多寡から分析する
要件検討の際に、間接事実や評価根拠事実・評価障害事実を総合して要件が充足されるかどうかの検討を求められることが多くあります。
この場合は、当該要件の存在または不存在を、推認ないし評価・障害させるような事実の多寡で、書く分量を決めるべきです。

たとえば、平成26年刑法では、甲の不作為による殺人の実行行為性を基礎付けるような事情が数多く散りばめられており、このような事実を引用して、それに評価を加えれば、必然的に不作為による殺人の実行行為性の論述量は増えていきます。

本番でこのような分析をするためには、普段から、当該要件の考慮要素を押さえるよう意識して勉強する必要があります。

⑵ 与えられた事実の言い回しから分析する
問題に与えられた事実の言い回しから、書く分量を決めるという方法もあります。すなわち、その言い回しは生の事実なのか、法的評価を含んだ言い回しなのか、という視点を軸に分析する方法と言えます。

たとえば、刑法で甲に住居侵入罪(刑法130条前段)が成立すると思われる場合に、問題文中「立ち入った」と書かれている場合と、「侵入」と書かれている場合では、書く分量が変わってくることがあります。「侵入」は刑法130条前段の文言そのもので法的評価を含んだ概念ですから、住居侵入罪の成立に争いがないと考えていいでしょう。これに対して、「立ち入った」は生の事実ですから、この生の事実を引用したうえで、「侵入した」と簡単に評価する必要があると思われます。

なお、平成26年刑法の問題文第7項は「立ち入り」と生の事実として事実が与えられており、住居侵入罪の成否が問題となり得ることを示唆しています。さらに、同問では、住居侵入罪の成否が分かれるような事実が点在していることから(第1項等)、それなりの論述・検討が求められていることが分かります(→4⑴参照)。

このような分析をするためには、普段から、条文素読や判例のキーワードを押さえるといった勉強が必要になります。

⑶ 典型例と限界例の視点から分析する
問題文で与えられた事実が、当該要件の典型例なのか、異常な限界例なのかという視点を軸に、書く分量を決める方法もあります。

問題文中に与えられた事実が当該要件充足の典型例であり、「論点」としての解釈論を展開するまでもなく充足すると認められる場合は、一言簡単に要件が満たされる旨を指摘すれば足ります。
これに対して、問題文で与えられた事実が特異であり、要件充足の判断が難しい場合は、当該事実に関する「争点」が潜んでおり、それなりの論述が求められている場合がほとんどです。

本番でこのような分析をするためには、普段から、条文の趣旨、典型例と限界例(判例)をワンセットで押さえるような勉強をする必要があります。

ちなみに、多くの受験生は、判例が大事であることを理解していると思います。しかし、判例はあくまでも限界事例であることを意識できていない人が多いと思われます。

結論がどうなるか分からないこそ訴訟になり、最高裁まで争われて判例となるのです。判例はあくまでも限界事例であり、病理現象であることを忘れてはいけません。生理現象である典型例も押さえるようにしましょう。

特に、手続法は、手続の本来あるべき姿と判例の事案を対比させると、理解が深まると思います。

5 さいごに

今回は、あくまで一般論ですが、「出題趣旨に沿うために司法試験受験生が本番中考えるべきこと」を書いてみました。当たり前すぎると思った方も多いかと思いますが、司法試験は当たり前のことを当たり前に実行することが難しい試験です。

私は、本番でこのような分析を意識的に(ときには無意識的に)行い、答案を作成しました。

今回書いたような視点を軸に出題趣旨に沿うような答案を作成するためには、普段からどのような勉強をすべきかについて予測がついた方が多くいらっしゃれば、当ブログの管理人としては望外の喜びです。

次回は、合格体験記として、本番に向けて普段からどのような勉強をしてきたのかを書きたいと思います。

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